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天音光人の文学的日常

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文学はひとつの呪いである

久々に北杜夫の『どくとるマンボウ青春記』を読んでいて、トーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』の話が出てきました。北杜夫がトーマス・マンに心酔していて、とくに『トニオ・クレーゲル』は擦り切れるほど読んだということは有名です。ペンネームもトニオ(杜二夫)から来ているそうです。

『トニオ・クレーゲル』は芸術家と市民性の葛藤をテーマとした作品で、その中で主人公のトニオが「文学は天職ではなくて、ひとつの呪いです」と述べている箇所があり、北杜夫はそこを引用しています。トニオは憧れているハンスやインゲに文学の話をしますが、彼らは興味を示しません。ハンスやインゲは市民的な人物で、現実に充足している(リア充)ので、文学はあまり必要ではないのです。トニオはそのような彼らを一方でうらやましく思うのです。

文学の魅力に取り憑かれた人は現実世界には充足できませんし、逆に現実世界に充足できない人が文学に充足を求めるのかもしれません。その両方の要素があるのでしょう。そういった感覚は、私自身も実感としてよくわかります。




by amanemitsuhito | 2017-09-23 07:55 | 文学一般

天音光人の文学的日常


by 天音光人