天音光人の文学的日常

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12月になるとベートーベンの第九を聴きたくなります。以前にはコンサートに行ったりもしていたのですが、このところすっかりご無沙汰で、CDで聴いています。

第九のCDは二十枚ほど持っているのですが、いろいろと聞き比べてみて、最終的にはやはりフルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団演奏の1951年のものが、やはり一番いいと思っています。それ以外の指揮者のものだと、カラヤンやバーンスタインもいいし、ショルティやスウィトナーやバレンボイム、ベームやラトルもいいですが、録音は多少悪くても、やはりフルトヴェングラーに戻ってきてしまいます。

フルトヴェングラーのものでも、その他に1942年のベルリンフィルの演奏のものも迫力があって、すごくいいです。古い録音の物ですが、GRAND SLAM から2016年に出たCDはノイズがかなり除去されていて、非常に聞きやすくなっています。それでもやはり録音状態は決してよくはありませんので、どうしてもバイロイト盤には総合的に劣ります。

バイロイト盤も何種類も出ていて、私も5枚ぐらい持っていますが、その中で一番のお気に入りは、これまたGRAND SLAM から2012年に出ている疑似ステレオ盤で、これもノイズがかなり消去されていますので、驚くほどいい音質になっています。

というわけで、今年もフルトヴェングラーの第九を聴きたいと思います。

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# by amanemitsuhito | 2018-12-09 22:12 | その他 | Comments(0)
村上春樹のエッセイ集『使いみちのない風景』を読みました。これは旅行に関する随想を旅先での写真とともに掲載したものですが、その中で村上春樹自身は旅行は好きではないと断言しています。彼は移動より定着を好む方だそうですが、それにも関わらず旅をすることについて、非常に興味深いことを述べています。

「結局のところ僕は<定着するべき場所を求めて放浪している>ということになるのではないかと思う」(17ページ)

しかしながら、彼は定着するべき場所をどこにも見つけることができないから、放浪を続けるのです。そのような、どこにも自分の居場所がない、という感覚は、村上春樹の書く小説に頻繁に現れています。

たとえば『中国行きのスロウボート』は日本に住む三人の中国人の話ですが、彼らは日本に自分の居場所が見つかりません。最後には「中国行きのスロウボート」に乗ろうという歌が出てきますが、スロウボートで中国へはとうてい行けませんし、また中国へ行ったところで、やはり彼らには居場所はないでしょう。

そういった「居場所のなさ」は、多くの現代人が感じていることであり、だから村上春樹の文学は多くの人に共感されるのではないだろうかと思うのです。


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# by amanemitsuhito | 2018-11-26 18:25 | 読書記録 | Comments(0)
乾くるみの『リピート』(文春文庫)を読みました。これは映画化やテレビドラマ化もされているようですが、原作とはかなり内容を変えてあるようです。

さて原作の『リピート』ですが、これは過去のある時点(十ヶ月ほど前)に戻って人生をもう一度(あるいは何度でも)やり直すという設定で、最初はそのリピート自体がなんらかのトリックかと思って読んでいたのですが、それ自体はトリックではなく、たんにSF的な設定ですね。ミステリとして読むと、そこでまずがっかりします。以下ネタバレがあります。

最終的には犯人(?)の企みが明らかになりますが、動機が弱すぎるし、今ひとつ納得できませんでした。また、主要登場人物全員が最後には死んでしまうという点で、クリスティの『そして誰もいなくなった』が念頭に置かれているようですが、クリスティの方では犯人の綿密な犯行計画に基づいて殺人が行われるのに対して、『リピート』の方では偶然的要素が強すぎて、ご都合主義になってしまっています。その意味では、クリスティの足下にも及ばないでしょう。

というわけで、面白い点もあるけれども、不満が残る作品でした。5点満点の評価なら2点です。


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# by amanemitsuhito | 2018-11-20 12:19 | 読書記録 | Comments(0)
乾くるみの『セカンド・ラブ』(文春文庫)を読みました。これも一種の叙述トリックで、たしかに最後に驚くべき事実がわかるのですが、『イニシエーション・ラブ』ほど鮮やかではないですし、設定にもけっこう無理があります。

また、なによりも後味がわるいです。この二人はそのあとおそらくうまくはいかないでしょうし、また主人公があまりにも哀れです。純情で不器用な男の悲哀と女のしたたかさを強く感じました。『イニシエーション・ラブ』の女のしたたかさはまだかわいさを残していますが、『セカンド・ラブ』の方はあまり共感できません。

それにしても、せっかくの叙述トリックは悪くないのだから、もう少し読後感のいい結末にできなかったのでしょうかね。5段階評価で言えば、『イニシエーション・ラブ』は4点、『セカンド・ラブ』は2点ぐらいです。


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# by amanemitsuhito | 2018-11-13 15:12 | 読書記録 | Comments(0)
村上春樹の『海辺のカフカ』を読み終わりました。もう五、六回は読んだと思います。読了して思ったのが、レイモンド・チャンドラーの『プレイバック』でフィリップ・マーロウが言う「タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きている資格がない」という名セリフです。

主人公の田村カフカ少年は「世界で一番タフな少年」になるべく、家出をして四国の松山まで旅に出ます。そこで少年は、タフになるということは同時に他人に対して優しくなることだということを悟るのです。そして自分を捨てた母の気持ちを理解し許すことで、本当の意味でタフな少年になります。

なお、フィリップ・マーロウのセリフで「タフ」と訳されているのは、原文では hard ですし、上記の訳文は生島治郎によるものだそうですが、村上春樹自身はその訳をかなり問題あるとしており、自身では「厳しい心を持たずに生きのびてはいけない。優しくなれないようなら、生きるに値しない」と訳しています。原文の意味には忠実なようですが、ちょっと間延びした感じがします。

それでも、『海辺のカフカ』には明らかにその思想の影響は見て取れますし、それを書いた頃の村上春樹はやはり「タフ」という言葉を用いていますから、生島訳のセリフを念頭に置いていたのでしょう。


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# by amanemitsuhito | 2018-11-10 09:57 | 読書記録 | Comments(0)

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