さやわかの『文学の読み方』(星海社新書)を読みました。星海社新書はけっこうサブカルチャー系の文学理論的なものなどを出していますが、これもちょっと個性的な文学論でした。
主張自体は明快で、日本では明治以来、「文学は現実を描く」あるいは「文学は人の心を描く」ものだという価値観が支配的だったけれども、それは錯覚であり、それによって文学作品の評価をめぐって、さまざまな混乱が生じているのであり、文学には現実を描くことなどできないということを認識することが重要だ、と言うわけです。
そのことを文学史やメディア史をたどりながら論じていて、主張自体はよくわかります。ただ、ここでいう現実とは何か、あるいは文学で描かれる(虚構)世界は現実の世界とどんな関係にあるのか、という点については、時代により人により違っているのではないかと思います。その問題があいまいなままでは、文学は現実を描けないと言っても、あまり意味がないのではないかと思いました。