乾くるみの『イニシエーション・ラブ』(文春文庫)を読みました。これは映画化もされていて、結構人気のある作品のようです。内容は恋愛小説でありながら、最後の最後で叙述トリックになっていて、ミステリ的な要素も含んでいます。この最後の叙述トリックがこの作品のウリで、たしかになるほどそうだったのかと思いました。恋愛小説として読んでも悪くはないです。
構成としては前半のSideAと後半のSideBの二つの部分からなっています。前半は初々しい恋愛小説として素直に読めます。後半も恋愛小説なのですが、最初からちょっと違和感があり、最後の最後になって、その違和感の正体がわかります。しかし、そこまでの恋愛小説の部分が、悪くはないけれども平坦で、あまりたいした事件もなく、終わりまで読み進むのがちょっと退屈です。
せっかく最後の叙述トリックはうまく効いているので、もう少し全体に波乱というか、読者を惹き付けるような要素を持たせたらよかったのにと思いました。その意味で、これもまたちょっと惜しい作品です。