カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読みました。これをカズオ・イシグロの最高傑作と見なす人も多いようで、日本でもテレビドラマ化されています。
臓器移植のためにクローン人間が作られ、臓器提供ができる大人になるまで施設で育てられているというSF的な設定で、そのクローン人間の女性の回想という形で話が進んでいきます。そこではクローン人間も普通の人間と同じく心を持っていて、恋もします。非常に深い倫理的な問題をテーマとしていて、小説としての作りもよくできていると思います。
ただ、私にはやはりあざとさが見えてしまい、今ひとつ感情移入ができなかったのと、テーマや価値観が通俗的であたりまえすぎて、やや物足りない感じがしました。もう少し従来の価値観をひっくり返すようなものとか、なにか新しい世界のようなものを見せてくれるものというか、そんな斬新なものがもっとほしかった気がします。その意味では、前作の『日の名残り』の方が私には気に入っています。